判例紹介(平成19年8月10日東京地方裁判所判決)・・・賃借人が自殺した場合における相続人及び連帯保証人の責任
賃借人が自殺した場合に、相続人や連帯保証人に対して損害賠償請求することは可能かといった問題や、損害賠償請求できるとしてどの程度の損害額を請求できるのかといった問題があります。今回ご紹介する裁判例はこれらの問題について一定の方向性を示しているので参考になると思います。
本裁判例では、まず賃借人の善管注意義務の内容を判示しています。具体的には、賃借人の善管注意義務の対象には、賃借目的物を物理的に損傷しないようにすることだけではなく賃貸目的物で自殺しないようにすることも含まれる旨判示しています。
その上で、賃借人が本件物件で自殺したことは賃借人の善管注意義務に違反したものであり債務不履行を構成するから、賃借人を相続した相続人には当該債務不履行と相当因果関係のある原告の損害を賠償する責任がある旨判示しています。
更に、連帯保証人の責任については、賃借人が本件物件で自殺したことと相当因果関係にある原告の損害について、相続人と連帯して賠償する責任があるとしています。この責任の範囲については、連帯保証人側から、その責任の範囲は賃料不払い等の通常予想される債務に限られ、賃借人が自殺したことにより生じる損害賠償債務は含まれない旨主張されていましたが、裁判所は、連帯保証人の責任範囲を限定する趣旨の記載はなく、かえって「一切の債務」について連帯保証人として責任を負う旨の記載がある以上、このような連帯保証人側の主張は採用されない旨判示しています。そのため、連帯保証人側としては契約書上、その責任範囲を限定する旨の防衛が必要となります。
最後に、損害賠償の額についてですが、本件物件については賃貸不能期間を1年間として1年分の賃料額を損害とし(月6万×12ヵ月)、その後2年間は半額の賃料でしか賃貸できないとして2年分の賃料の半額(月3万×24ヵ月)を損害とした上で、中間利息を控除して損害額を算定しています。
なお、今回の裁判例は参考にはなりますが、最高裁判例ではなく地裁判決にすぎず、今回ご紹介した裁判所の判事内容が確立された基準とまでは言えない点があることにご留意ください。
全国賃貸住宅新聞 2013年3月11日号 より抜粋